ブルー・ハイウェイ 内なるアメリカへの旅(上)
ウィリアム・リースト・ヒート・ムーン著 真野明裕訳
著者ヒート・ムーンはアメリカインディアンの血を引く白人との混血。(今ではインディアンとは呼ばず、アメリカ先住民族と呼ぶがあえて本の内容に沿った表現にします。)祖父がミズーリ州のオセージ族、妻はチェロキー族の出身。妻との別居中に突如言い渡された大学教員職の解雇を機にヒート・ムーンは旅に出る。1975年製フォード・エコノラインにゴースト・ダンシング(精霊踊り)と名付け、寝床兼キッチン兼応接間の簡素な装備でアメリカ一周の旅に出たのは1978年3月。
<アメリカの古い地図では幹線道路は赤で、裏街道はブルーで示されていた。>
ヒート・ムーンは幹線の州間道路を避け、ブルー・ハイウェイをひた走る。人恋しさからカフェで地元民の話を聞くかと思えば、山奥でひとりになりたいのに旅人が話し込んでくる。人と人との繋がりがまだ辛うじて残る裏街道の旅の記録はアメリカの忘れられてしまった小さな歴史を巡る旅でもあった。日本で言えば、県道か市道レベルの道なのだろう。
こんな旅がいいなぁ。観光地へ行って珍しい奇岩の横で写真を撮って満足するような薄っぺらな旅行ではなく、自分なりの考えを持った上で、地元民や他の旅人と意見を交換し合う旅。ビールを奢り、奢られ打ち解け合う旅。こういう旅に憧れますね。
若い頃バックパックであちこち旅をした時は、近い感じの旅だったなと思い出しました。進む速度が遅ければ遅いほど良い旅ができるという確信にも似た旅の哲学みたいなものを感じていたっけ。外国を旅した時は、色々な国の旅人と仲良くはなるけど、やはり言葉の壁の前では深い話をするにはあまりに語学力がなさすぎたので、日本での旅は内面に近づく良い旅もあったと思う。
いい旅ができるといいねと声を掛け合い別れてきた旅の日々を思い出し胸が熱くなります。
ヒート・ムーンは珍しいというか珍妙な地名に惹かれて旅をし、先祖の墓を探して旅を続け、コーヒーを求めて間違って売春宿に入ったり、多分行けるだろうで山岳道路で遭難しかけたりでなかなかの冒険家です。マッキンリーまで行かなくても案外近くに冒険は転がっているのかもね。
アメリカインディアンの血を引く著者なので、後から入植してきたスペインやイギリスなどのインディアンに対する卑劣な態度など鋭く切り込んでいて、この点でも読み応えがある。
旅に出てから道中読むか、読んでから旅に出るか ぜひ一読を!